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労務・労使紛争

労務・労使紛争

解雇

【ケース1】入社直後からとにかく勤怠不良な従業員Aがいる。普段から遅刻・早退が多く、それだけならまだしも、毎月数回は欠勤を必ずしている。普段から注意しているが一向に改善されないので、解雇したい。

【ケース2】従業員Bが、社内の同僚と不倫を始めてしまい、あっという間に社内で噂が広がってしまった。職場の風紀・秩序を乱しているので、解雇したい。

【ケース3】会社の業績が悪化し、不採算部門を閉鎖することになった。そこで、その部門にいた従業員のうち、数名を解雇することとした。

こういったケースで解雇できるでしょうか?

解雇問題のありがちな対応例

【ケース1】
普段から注意しているが一向に改善されない以上、他に手段はないと解雇に踏み切った。
⇒解雇した従業員が、労働審判を申し立ててきた。
労働審判の場で、従業員の遅刻や欠勤自体はタイムカード等で立証できたが、それに対して会社側が再三注意指導してきたということを示す証拠がなかったため、裁判所には、解雇が無効である可能性が高いとの心証を持たれてしまった。
そこで、やむなく4か月分の賃金を支払って、和解することとなった。

【ケース2】
就業規則にある「職場の風紀・秩序を乱した場合」に該当するとして懲戒解雇した。
⇒懲戒解雇した従業員から、不当解雇として訴訟を起こされてしまい、結局、解雇は無効、12か月分の賃金を支払わなければならなくなった。

【ケース3】
閉鎖する部門の中から業績などをもとに、数名選び出し、解雇した。
⇒解雇した従業員らが不当解雇だとして争ってきた。その結果、もともとは赤字を減らそうとして解雇に踏み切ったはずなのに、解決金として各従業員に対して賃金3か月分の金銭を支払わなければならなくなった。

解雇問題に対するガーディアンの対応

解雇問題に対するガーディアンの対応

まず、解雇とは、使用者による一方的な雇用契約の解約を指します。 そして、労働者は、毎月支払われる給与を予定して生計を立てていますから、使用者が全く自由に労働者を解雇してしまうと、労働者に与える影響があまりに大きすぎるため、労働者保護の観点から、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)とされています。 これを解雇権濫用法理と呼び、解雇するにはまず客観的に合理的な解雇理由がなければならず、また、仮に客観的に合理的な解雇理由があったとしても、それで常に解雇できるわけではなく、解雇することが社会通念上相当であると認められない場合は無効になってしまうと解されています。 そして、解雇することが社会通念上相当であると認められるのは、他の手段は採り得ず解雇という手段によるほかないというような場合だと考えられています。 ですから、雇い主としては、解雇したい従業員がいるとしても、すぐに解雇に踏み切ることなく、適法な解雇かどうか、慎重に検討しなければなりません。 以上を前提にそれぞれのケースについてみていきましょう。

【ケース1】は、正当な理由なく欠勤や遅刻・早退を繰り返し、注意指導しても全く改善しないような場合は、解雇できるでしょう。

具体的には、①欠勤や遅刻・早退の理由は正当なものなのかどうか、②欠勤や遅刻・早退の回数や頻度はどのくらいか、③注意指導を行い、改善の機会を与えたか、④業務に具体的な支障が出ているか、等といった点を検討する必要があります。

①寝坊で遅刻したとか、ゴルフコンペに出るために病欠と嘘をついて欠勤したとか、そういうものは当然正当なものとはいえません。注意すべきは、病気やケガによる欠勤や遅刻・早退です。雇用契約は長期にわたることを想定していますから、その間に病気やケガで休むことも当然あるでしょう。ですから、しばしば病欠するからといって、それだけで解雇するのは難しいです。

③注意指導を行ったかどうかという点については、後々争われたときのために、きちんと証拠化しておくべきです。
また、仮に②遅刻の頻度がかなり多かったとしても、それが始業時刻に1~2分遅れただけのもので、業務には全く支障が出ていなかったというような場合であれば、それのみを理由とした解雇は難しいでしょう。

そこで、勤務時間については厳格に管理しつつ、正当な理由なく欠勤や遅刻・早退をした場合には、報告書や始末書の形で書面化し、指導内容も同様に証拠化していきます。そして、そういった対応を繰り返したが全く改善されず、業務に支障が出ていると判断できるとき、解雇に踏み切るべきでしょう。具体的に、業務にどういう支障が出たかもきちんと証拠化しておきましょう。
解雇を有効に行うには、様々慎重に検討する必要がありますから、事前に弁護士に相談しておくことをお勧めします。

【ケース2】は、確かに社内で不倫の噂が広まっており、使用者としてはそのまま放っておくわけにもいきません。

ですが、懲戒解雇は、懲戒処分の一つで、重大な企業秩序違反行為に対する一種の制裁として行うもので、解雇予告もなく即時に解雇され、再就職も非常に困難となるほか、多くの場合退職金も全部または一部を支給されなくなってしまうという、労働者に極めて大きな不利益になるものです。ですから、雇い主としては、懲戒解雇に相当すると思われる場合であっても、懲戒解雇が懲戒権の濫用にならないかどうか、慎重に判断する必要があります。

懲戒解雇が有効とされるためには、①就業規則にきちんと明記され、労働者に周知されていること、②就業規則に定められた懲戒事由に該当すること、③社会通念上相当であること、以上が必要です。
そして、不倫は、私生活上の行為ですから、それを理由に会社が懲戒解雇するというのは、基本的には認められないと考えるべきでしょう。

裁判所としては、①職場外でされた職務遂行に関係のないものであっても、企業秩序の維持確保のために規制の対象とすることが許される場合もありうる(国鉄中国支社事件(最一小判昭和49・2・28民集28巻1号66頁)ということは言いつつも、②就業規則中の「職場の風紀・秩序を乱した」とは、従業員の懲戒事由とされていることなどからして、雇い主側の企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきで、③不倫をした従業員の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らして、従業員らの不倫が職場の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたといえるかどうか、などで判断する(旭川地方裁判所平成1・12・27 判例タイムズ724号195頁)ものと考えているようで、かなり慎重に考えています。

このような考え方からすると、まずは、社内の同僚と不倫しているという行為は、それが社会的非難を受けるべき行為にあたるという点はさておき、私的な行為に過ぎないため、職務遂行に関係のある行為とはいいがたく、基本的に懲戒解雇は難しいでしょう。ただし、たとえば、会社の施設内でまさに勤務時間中に不貞行為を働き、職務がおろそかになっている場合であれば、従業員が負っている職務専念義務違反を理由に懲戒処分をすることが可能でしょう。
あとは、どういった懲戒処分までなら許されるのかという話になりますが、例えば再三にわたって注意指導をしたが、全く改善せず、勤務時間中の社内不倫を継続する、というような、他に方法がないというような場合でなければ、解雇はなかなか難しいでしょう。

そして、雇い主としては、社内不倫をした問題社員の対応も必要ですが、他の従業員に対する対応も必要です。
つまり、社内で不倫の噂が流れてしまっていること自体が、他の従業員に対する環境型セクハラ(労働者の意に反する性的な言動によって、労働者の就業環境が不快なものとなり、能力発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じること)にあたり得ることを認識し、二人を業務上関わる必要のない別の部署に配置転換するなど、適切な対応を取る必要があるという点に注意してください。

【ケース3】は、経営上の理由から余剰人員削減のためになされる解雇で、整理解雇と呼ばれるものです。

整理解雇が有効かどうかは、①人員削減の必要性が認められるかどうか、②解雇回避努力をしたかどうか、③解雇対象者の選定に合理性があるかどうか、④手続きが妥当かどうか、以上の4要素をみたしているかどうかで判断されます。
そのため、整理解雇を実施する際は、これらの要素をしっかりと意識して行う必要があります。

不採算部門を閉鎖するとき、まずは配置転換や出向等を出来る限り行い、削減しなければならない人数自体を減らすべきです。その後、希望退職を募集し、それでも削減すべき人数に満たないときは退職勧奨を行いましょう。そこまでしても、まだ削減人数に達しないときに初めて整理解雇に踏み切るべきですが、このとき、解雇対象者の選定は合理性がある方法にしなければなりません。
恣意的に選定していると疑われないように、きちんと客観的・合理的な基準を設け、その人選基準を整理解雇実施前に従業員に対してしっかりと説明しましょう。

このように、整理解雇をするには、その前準備が重要となってきます。そして、退職勧奨はやり方を間違えると退職強要として、従業員に対する不法行為を構成することがありますので、慎重に行う必要があります。また、解雇対象者の選定基準をどのようにするか、という点も雇い主側の恣意的選択を疑われないようにするために慎重に設定すべきです。人員削減を検討し始めた段階で、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

各ケースをとおしてみてきたように、従業員の解雇はなかなか認められづらいものです。解雇のやり方を間違えると、後々解雇を争う元従業員から内容証明郵便が届いたり、労働審判や訴訟を起こされてしまう危険があり、いざそういった労使紛争になると、経済的なデメリットももちろんですが、ブラック企業のレッテルを貼られるというような企業の信用を著しく害するリスクがあるのです。

従業員を解雇したいと考えたときは、そもそも解雇が有効かどうかを検討することも大事ですが、後々訴訟等を提起された場合でも解雇の有効性をきちんと証明できるように、証拠化しておくということが特に大事になります。

具体的な状況ごとに、解雇できるかどうか、解雇に向けてどのようなアクションを取り、どのような証拠を残しておくかは異なりますから、実際に解雇してしまう前に、一度弁護士にご相談されるべきでしょう。

残業代

最近、従業員が、会社を辞めたとたん、未払い残業代を請求してくるケースが増えてきています。
もしあなたの会社が残業代請求されたら、どのように対応すれば良いでしょうか?

残業代問題のありがちな対応例

ある日、元従業員が、未払い残業代があるとして、弁護士を通じて150万円の請求をしてきた。

【ケース1】当該従業員は、「△△店店長」という肩書きだったので、管理監督者にあたるから、残業代等払う必要がない、として拒んだ。

【ケース2】残業するほどの仕事も与えておらず、残業は原則禁止と言っていたのに、勝手に残業したのだから、支払う必要はない、として拒んだ。

【ケース3】毎月支払っていた給与には、定額の残業代が含まれていたんだから、これ以上に支払う必要はない、として拒んだ。

いずれのケースでも、最悪の場合、訴訟を起こされ、未払い残業代だけでなく付加金まで支払わなければならず、合計300万円の支出を余儀なくされるおそれがあります。

残業代問題に対するガーディアンの対応

残業代問題に対するガーディアンの対応

労基法上、賃金は法定労働時間外の労働や法定休日、深夜(午後10時から午前5時まで)の労働については、通常の賃金に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払うよう規定されています(労基法37条)。 具体的には、 ①1か月の合計が60時間までの時間外労働及び午後10時~午前5時までの深夜労働:2割5分以上 ②1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合の60時間を超える部分の時間外労働:5割以上 ※ただし、当分の間(平成29年7月現在)、中小事業主には、この割増率の適用はされません。 ※事業場で労使協定を締結した場合、時間外労働が月60時間を超え、割増率が50%以上に引き上げられた部分の割増賃金の代わりに有給の休暇を付与することができます(労基法37条3項)。 ③法定休日労働:3割5分以上 ④1か月60時間以内の時間外労働と深夜労働が重なる場合:5割以上 ⑤1か月60時間を超える時間外労働と深夜労働が重なる場合:7割5分以上 ⑥法定休日労働と深夜労働が重なる場合:6割以上 の割増率を乗じることになります。 そして、残業代の請求があったとき、 1.管理監督者など、労基法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されない従業員かどうか。 2.残業を許可制とし、許可がない限り禁止としていたかどうか。 3.固定残業代を支払っており、それで十分に残業代としてまかなえていたかどうか。 4.労働者が主張している残業時間は正しいのかどうか。 5.消滅時効が完成していないかどうか。 こういった点等に注意しつつ、既に支給した賃金額に、先ほどの割増率を乗じた割増賃金を含まれているかどうか、未払い分がないかどうか、検討していくことになります。

【ケース1】

まず、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、肩書等で形式的に判断するのではなく、実態に即して判断されます。
具体的には、①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること、および③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること等を充たすかどうかで判断することになります。

裁判例では、銀行の支店長代理(通常の就業時間に拘束され出退勤の自由がなく、部下の人事や銀行の機密事項に関与することもなく、経営者と一体となって銀行経営を左右する仕事に携わるというようなこともないため)や、ファミリーレストランの店長やカラオケ店店長など(時間管理を受けているため)は、管理監督者にあたらないとされました。

このように、管理監督者にあたるかどうかは、「△△店店長」という肩書きだからというだけでなく、実質的に経営者と一体的立場にあるとまでいえるのかどうか、慎重に判断していく必要があります。
また、もし管理監督者にあたるとしても、深夜労働についての規定の適用は受けますから、深夜割増賃金についてきちんと支払いができているかどうかも検討しなければなりません。

こういった点を検討していき、未払い残業代があるかどうか、労働者側の主張が正しいのかを検討していくことになります。

【ケース2】

使用者は、従業員の労働時間を適切に管理しなければならないと考えられています。
そして、多くの会社では、労働時間の適切な管理のために、タイムカードやパソコンの管理ソフト等を導入しているのですが、そのタイムカード等を逆手にとって、終業時刻を過ぎてもダラダラと居残りし、わざと遅い時間に打刻し、残業代が支払われるのを狙う従業員は、残念ながらいつの時代にもいます。

使用者としては、従業員が勝手に居残りしていただけで残業代を請求してきたら、とても納得がいくものではないでしょう。ですが、ただ何の防止策も講じることなく、残業なんてしていないはずだから残業代は支払わないと言っても、その主張が裁判所で認められることはなかなかありません。

裁判例の多くは、タイムカード等の客観的な記録によって時間管理がされている場合は、特段の事情がない限り、その打刻時間をもって実労働時間と考えていますから、きちんと特段の事情を裁判所に認めさせる必要があるのです。

そこで、【ケース2】では、残業を原則禁止にしていたというルールが厳格に運用されていたかどうか、を確認する必要があります。明確に残業を原則禁止にしていたといえずに、単に残業を命じなかったに過ぎず、従業員の残業を黙認していたようなケースや、所定労働時間内では到底終わらない業務量を与えていたようなケースでは、どんなに残業禁止にしていたといっても残業代の支払を免れられるものではありません。

たとえば、就業規則に、時間外労働は上司からの指示がある場合のみで、指示がない場合は認めないと規定し、また、実際の運用としても、従業員から残業の申出があった場合、その都度上司が残業の必要性を検討し、残業の指示を出すかどうか実質的に判断していた、上司に事前の指示を仰ぐことが困難な場合には、残業に関する事後的な報告・承認を義務づけていたなど、厳格に運用していた、このようなケースであれば、従業員がそれ以外の日時で勝手に残業をしたとしても、残業代請求を拒むことができるでしょう。

【ケース3】

毎月支払っていた給与には、定額の残業代が含まれていたんだから、これ以上に支払う必要はない、として拒んだ。
毎月割増賃金を算定するのが煩雑であるとか、あるいは労働コストの定額化を図る目的で、一定額を時間外や休日、深夜労働手当として支給する企業は、年々増えています。

ところが、この固定残業代は、それさえ支払っていれば、実際の残業がどれほどの量であっても追加で残業代を払う必要がない、ということにはならない、という点を見落としている会社が思いのほか多いです。つまり、固定残業代の仕組みについての理解が不十分であったために、せっかく固定残業代として支払ったつもりが、いざ裁判してみると、残業代支払いとして認められず、改めて支払わなければならなくなったというケースが少なくないのです。

ですから、固定残業代を取り入れる場合は、仕組みを十分に理解しておく必要があります。
そして、固定残業代が有効なものとして認められるためには、①定額手当が時間外労働等に対する手当であることが明確であり、②基本給と区別でき、③当該手当が実際の算定金額を上回っているか、当該手当で賄える分を超えて時間外労働をした場合には、その超過分について割増賃金が支払われていること、が必要だと考えられています。

ですから、固定残業代を導入する場合は、就業規則等で、支給する給与のうちのどの部分が固定残業代で、その固定残業代は時間単価がいくらなのか、具体的な数字や数式を予め明確にしておき、かつ、毎月固定残業代を超える残業があった場合には超えた部分の残業代を追加で支払うという運用を徹底しておくべきでしょう。

ところで、労働者からの未払残業代請求については、付加金というものに注意しなければなりません。付加金とは、割増賃金のほか、解雇予告手当や休業手当、年次有給休暇の賃金の支払いを使用者が行わないときに、労働者の請求により裁判所が使用者に対して未払金と同一額の金員を支払うよう命じるもので(労基法114条)、制裁金のようなものです。

未払い残業代があった場合常に付加金を支払わなければならないというわけではありませんが、未払い残業代請求訴訟の中で、裁判所が使用者の未払いを悪質なものだと考えて付加金の支払いを命じてくると、例えば、本来100万円支払えばよかったものが、最大で倍の200万円支払わなければならなくなります。

この結果は、到底看過できないものでしょうから、労働者から残業代請求されたとき、使用者としては、適正な残業代はいくらか、追加で支払うべき残業代があるのか、どういう反論ができるのか、様々な角度から検討し、早期解決を目指していくべきです。そのためには、早いうちから弁護士に相談されることをお勧めします。